BBS - デアイ

 

【a fatalist】

 

着替えを終えて隣を見ると弦一郎がめずらしく俺より遅い。時間が空いたので精市について聞きたいことがあった俺は声をかけた。

「弦一郎。」

俺の声に弦一郎の体が跳ねたのがわかった。

「なんだ。」

弦一郎はいつもと変わらないように声を作っているようだった。その様子が可愛く思えて仕様がない。

「今日は精市のところへは行かないのか?」

俺の口にした名前に弦一郎の眉が反応する。弦一郎の表情を俺は見逃さない。弦一郎が俺と精市の話をするのを嫌がっているのは感じている、それでも聞かずにはいられない。俺の居ないところで精市とどんな話をしてる?。。。精市が入院するまで俺たちはいつも3人いっしょだった。互いに同じ思いを持っていて同じ場所に立っていた。しかし、精市がいなくなって俺たちの関係は微妙だが変化を始めた。今、おまえは精市にどんな種類の思いを向けている?友情?同情?×情?きっとおまえは精市に同情することはない、精市を認めているから。。なら友情か?おまえの思いは変わってないのか……友情や同情ならいいんだ。×情でさえなければ……俺がおまえに向けている×情と同じでさえなければいいんだ。。俺は醜い独占欲でおまえを不快にさせている。。俺はこの気持ちをなんと呼べばいいのか分からない。。ただおまえがコレと同質の気持ちを精市に向けるのがイヤだ。。俺はコレを持て余している。。自分の意思で制御できない。。弦一郎、おまえは俺がこんなことを考えているなんて思いもしないだろう。だから今だって、簡単に答えてくれる。

「今からか?今日はもう遅い。こんな時間に見舞いにいっては精市のほうも迷惑するだろう。」

今日は行かないと答える弦一郎。その答えに俺は少なからず安心している。俺は冷たい人間だと思う。病気の精市の見舞いに弦一郎が行かないと知って喜んでいる。。俺が精市の立場にたったとして、弦一郎が会いに来てくれるのなら真夜中だって嬉しい。。精市はどうだろう真夜中に弦一郎が病院にきたら……怒るだろうか……

「……(ボソボソ)いや……、精市ならきっと喜んで迎える……」

「む?なにか言ったか?」

どうやら声に出ていたらしい。俺の悪い癖だ。弦一郎がからだを俺の方に向ける。。その瞬間、俺は言葉をなくした。いつもなら考えられない弦一郎の姿がそこにはあったからだ。。水に濡れた髪は雫をたらし弦一郎の頬をとおり首から鎖骨を通って胸へと滑り落ちていく。運動後の頬は朱色に染まりいつもより高くなった体温を示していた。ひとつのボタンも止められていないYシャツの隙間からは日々のトレーニングによって鍛えられた弦一郎の無駄のない筋肉が見える。ズボンのファスナーは半分までしかあがっておらず、ボタンもベルトも閉められていない。。俺は目を疑った。しかし更に俺にとって目を疑うようなことが起きていた。俺の目の前で弦一郎が真っ赤になってうつむいたのだ。弦一郎は体をクルリとロッカーのほうに向き直り着替えを再開しようとした。そして、その弦一郎の手を何故か俺は掴んでいた。。

俺はその手をロッカーに押し付け弦一郎の体をこちらへと向けさせる。

「蓮二?」

弦一郎が不思議そうに俺の名前を呼ぶ。。掴んでいた手を放し同じ手で雫が通った道をなぞるように指を動かす。頬から首、鎖骨、胸。。俺の指が下に降りていくにつれて弦一郎の体が緊張していくのが指先から伝わってくる。。俺の頭は相変わらず真っ白なのに俺の指はとまらない。弦一郎の腰骨からへそをなぞり更に下ろうとする。

「……れ…んじ、蓮二。やめろ。嫌だ!」

完全な拒絶の言葉に俺の指は止まる。。真っ白だった頭は急に現実味をおびて、自分のしている行為の異様さに気付かされる。。体から指を離すと弦一郎は背をむけて急いでボタンをとめだした。俺はただ呆然とその様子を見ていた。