BBS - デアイ

最近、蓮二の様子が変だと思う

 

【a fatalist】

 

立海テニス部の練習はすでに終わりコートには真田と柳の姿がみえるだけだ。厳しい練習の後、レギュラー人はそれぞれ自主練をするが特に副部長である真田の練習量は多くまた柳もよく真田の相手をするのでふたりが帰るのはいつも最後だった。今日も下校時間ぎりぎりまで練習し水飲み場で水分補給をしたあと頭から水をかぶりタオルで汗と水を拭きながら部室のドアを開けた。電気が落とされ暗くなった部室はガランとしており人の気配は感じられない。真田は明かりをつけ自分のロッカーへと向かい着替えをはじめた。となりでは柳が同じようにスポーツバックから制服を取り出しているところだった。柳の動きはゆったりとしていて品良く感じられる。いつもは真田のほうが着替えがはやく終わるのだがこのときは違っていた。

「……弦一郎」

考え事をしていた真田は柳の呼びかけに心臓を跳ねらした。

「なんだ。」

自分の動揺を相手に気付かせないよう精一杯いつもと同じ口調で返す。

真田のそんな心中に気付いているのかいないのか、柳はいつもと変わらない口調で話す。

「今日は精市のところへは行かないのか?」

柳の口にした人名に真田の眉がピクリと反応する。最近やけに柳は幸村のことを聞いてくるのだが、聞いてくるくせに真田が幸村の様子について話し出すと機嫌が悪くなる(ような気がする)。真田にはその理由が分からないので正直、柳と幸村の話をするのは気が進まないのだ。

「今からか?今日はもう遅い。こんな時間に見舞いにいっては精市のほうも迷惑するだろう。」

当然、今日は行かないという意思表示のつもりだった。

「……(ボソボソ)いや……、精市ならきっと喜んで迎える……」

「む?なにか言ったか?」

よく聞こえなかった真田は柳のほうに向き直った。柳は時々、頭で考えていることがそのまま口に出ていることがある。それらは大抵ほかの人には聞こえないのだが……。柳を見ると制服のネクタイを首元できっちりと閉めすでに着替えを終えていた。柳の姿をみて始めて自分の動作がとまっていたことに気付く。よくよく確認するとYシャツの前は全開でズボンも(最後にシャツをいれるために)ベルトを締めていなかった。着替えの途中なのだから当然かなり乱れた状態なのだが、そんな状態で声をかけられるまで放心していたのかと思うと恥ずかしい。

(……俺もまだまだ修行が足りんな。)

今ここに居るのが他の部員たちでなく柳であったことが唯一の救いである。他の……特に赤也などに見られていたら……ここぞとばかりにからかわれて……

『副部長、たるんでんじゃないッスか(ニヤニヤ)』

などといわれても返す言葉がない。……想像するだけで顔から火が出そうだ。馬鹿な考えは止めてはやく済ませてしまおうとロッカーに向き直り着替えを再開しようとしたその手をおもむろに掴まれる。