第二章 痛み
恋次は白哉に気づいていないのか先ほどと変わらず他のふたりと話をしている
大声で騒いでいるその表情や動作は白哉に向けてくる暗い表情とは違う
いつもなら隊員たちが騒いでいると煩わしく思うのだが今はそれもない
白哉は無意識のうちに恋次の表情を目で追っていた
動くたびに揺れる紅い髪を
熱を感じさせる瞳を
……そして何より
自分自身に向けられることはないであろう笑顔に……目を奪われる
白哉は気づかない
自分がそれを求めていることに……
しかしその時間も長くは続かない
互いの視線があったとたんに恋次の表情は塗り替えられた
白哉のよく知る顔
顔はうつむき、瞳は困ったように伏せられる
同時に白哉のなかでも変化が起こった
胸をさす痛みと相手を陵辱したいという欲望
胸の痛みは以前も感じたことがある
しかしこれが恋であるはずがない
あの表情を泣き顔に歪めて辱めて服従させたいと思う気持ちが
……愛であるはずがない
すでに十一番隊の隊舎から恋次の姿は消えていた
彼は白哉と目が合うとすぐに一礼してその場を去っていったのだ
そしてその後を他の二人が困惑した顔で追っていく
恋次が去った隊舎を見つめ白哉はしずかに瞳をとじた
再び目を開いたとき白哉の中で何かが変化していた
クルリと向きをかえ十三番隊へとむかう白哉の様子はいつもと変わらないく見える
しかしその胸中は癌のような傷に侵され
種は芽吹くことなく腐敗の道を進もうとしていた